なぜ知らなかったのか?

「なぜ知らなかったのか?」これは法輪功修煉者や法輪功の支援者が、法輪功への弾圧運動の規模と残虐性を中国国外の人々に伝える際に、よく耳にする言葉です。2009年6月に発表されたリーシャイ・レミッシュ氏による論文 (英語原文) では、国際メディアの法輪功に関する報道状況を考察し、現在最悪の人権危機の一つでありながら、なぜその事実が今でも知られていないのかについて論じています。以下はこの文書からの抜粋です。

世界最大の “良心(無実)の囚人” グループは? つまり、信念や異見のために投獄されているグループは? 欧米で教育のある新聞購読者の中で、正しく答えられる人はほとんどいない。答えは中国で収監されている法輪功修煉者だ。

人権擁護団体が様々な算出をしているが、現在中国で投獄されている法輪功修煉者の数は、少なくとも20万人、おそらくさらに多いと推定される。最近、イーサン・ガットマン氏と共同で2年にわたり調査して裏付けられた数字でもある。台北で私がインタビューしたチベット人の代表者によると、チベット人の良心の囚人の収監者数は約5,000人と推定されている。中国家庭教会の中国内での収監者数は定かではないが、数は増え続けている。しかし、法輪功の収監者数には及ばない。

なぜ、学者を含め、この事実を知っている人が少ないのか? メディアは法輪功に対する認識形成の上でどのような役割を果たしてきたのか? 本稿ではこれらの疑問を含めて考察する。

ニューヨークタイムズを定期的に読んでいても、法輪功のことを耳にしたことがない人もいる。「法輪功弾圧」は10年前のことであり、現在は問題ではないと思っている人もいるだろう。また、法輪功は奇妙な集団であり、迫害の犠牲者は恐らく同情に値しない人々だろうとする人もいるだろう。これらの認識は、下記に詳説するメディアの報道パターンに根ざすものだ。


宗教家とジャーナリストの論議

宗教界で影響力を持つ人々や信者と、宗教を専門とするジャーナリストの間で、メディア報道での宗教の解説の公平性や正確さにおける論議は続く。前者は、宗教や信者の信念やその行動を読み手が理解するために必要な情報を与えずに、常に否定的に報道されているとする。後者は、公正でバランスがとれた正確な報道であると主張する。

法輪功に関する報道についても、同様の議論が行われている。法輪功実践者と支持者は、欧米のメディアが法輪功とその迫害を不当に報道していると主張する ― 残虐性の記録を過少に扱い、法輪功のグループとその信念を軽んじ、中国政権が発信する根拠のない主張を信頼しすぎているという議論だ。これに対して、私が話したジャーナリストたちは、客観的に紛争の当事者の双方の意見を平等に伝えているだけであり、法輪功の報道はバランスが取れていて正確だと主張する。

法輪功の報道は、欧米のメディアがどのように宗教、特に新しい宗教グループを報道するかという大局的な議論の中での重要な事例研究だ。また、多くの人命が関わっていることを考えると、実に重要な事例研究でもある。実際、欧米の報道が、中国で迫害されている法輪功修煉者の状況を具体的に左右することが多々あるということが、私の調査で判明した。

[法輪功の背景と修煉が被った深刻な人権侵害の部分は省略:(法輪大法情報センター編集部)]

欧米の新聞報道

欧米の新聞報道の調査にあたり、1999年から2007年までの期間の、7つの英字新聞(NY Times、Wall Street Journal、Washington Post、LA Times、USA Today、London Guardian、The Australian)と3つの通信社(The Associated Press、Reuters、Agence France-Presse)に掲載された法輪功に関する記事1,852本を分析した。これらの記事は、メディア研究の基礎的な定量分析技術を用いて、見出し・冒頭で言及されるキーワードや情報源、さらに時間経過に伴う記事数から特定された。以下は、主な調査結果の一部である。


調査結果

(1) – 思いやりへの疲れ:法輪功の報道数は、拷問と殺害が増加とは逆に減少

最初のグラフは、調査した主要7紙に掲載された半年間の法輪功に関するニュース記事の総数を示す。

法輪功が話題になった当初は、比較的強い関心が寄せられていたが、時間が経つにつれ、欧米のマスコミは徐々に無視するようになった。これは弾圧運動が緩和されたからではない。それどころか、欧米のマスコミが目を背けることで迫害はエスカレートしていった。

下のグラフの青線は、法輪功に一度でも言及したAP通信の年間記事数である。赤線は(www.faluninfo.netからとった)弾圧運動の結果、死亡した法輪功修煉者の記録数である。同様の傾向は、調査対象となった各メディアにも見られた。

法輪功修煉者の拘束中の拷問による死者数の記録が増加に伴い、欧米の報道機関(この場合はAP通信)の記事数が急速に減少した。


(2)何が報道され、どのように報道されるかを決定する上での中国共産党の影響力 ― 法輪功や人権擁護団体の比ではない

この調査は、法輪功に関する記事の情報源に焦点をあてた。情報源を特定するために、記事の見出しやリードセンテンスを調べていった。記事の見出しが 「法輪功情報センター:さらに三人の学習者が拷問死」という場合は、法輪功を情報源として分類した。「新華社によると、法輪功は潰された」という記事は、中国政府が情報源であると判断した。

下のグラフは、AFP通信とロイター通信の記事の見出しや冒頭の段落で、中国政府(CG)、法輪功(FLG)、人権擁護団体(HR)のいずれかを主な情報源として引用した記事の数を示している。

法輪功に関する記事は、中国政府の公式声明や行動に端を発して報道の枠組みが作られているケースが、法輪功や人権団体に比べて2倍以上高い。法輪功がメディアへの材料提供に失敗したからではない。インフォセンターは1999年から定期的にプレスリリースを出しており、ロサンゼルス、ニューヨーク、ワシントンで開催された法輪功修煉者が主催する記者会見に私自身は参席してきたが、記者は一人も現れなかった。

(3) –中国のプロパガンダに根ざした蔑称的な言葉で、欧米の報道機関が法輪功を表現することがよくある

一例を挙げると、AFPやロイターの記事では、法輪功に対する中国共産党の「邪なカルト」(evil cult)というレッテルがほとんどの記事(78%)で用いられている。ロイター通信の信用を得るために、この言葉が用いられる場合は、ほとんど「中国政府は法輪功を邪なカルトと見なしている」として常に「中国政府」を引用源とすることを加えている。他のメディア、例えば、ニューヨークタイムズのような新聞では「邪な」という言葉はしばしば落とされているが、ジャーナリストの言葉として法輪功は「カルト」と表現している。このようなレッテルは見出しにも見られる。しかし、なぜ法輪功にこのようなレッテルが貼られるのか、このような用語は正確か、このレッテルの出所は何か、という理論的な議論は一切ない。

実際、中国共産党(中共)が中国語で法輪功を貶めるために使っている「邪教」は、「異端の宗教」(heterodox religion)と訳したほうがより正確だろう。しかし、欧米の記者の見解を左右しようという目論見で、中共は法輪功に関する英語の言説の中では否定的な意味合いを持つ「邪なカルト」(evil cult)という言葉を選んで用いている。中共は、法輪功をオウム真理教、人民寺院、分派ダビデ派など、欧米では破壊的なカルトとして一般的に認識されているグループと同列にしようと試みている。欧米のジャーナリストがこの言葉を疑うことなく再現していることからも分かるように、このレッテルは中共による最も見事な広報手段に挙げられる。

ジャーナリストたちは、法輪功について「バランスのとれた」記事を書くことを目標にしており、双方の意見を公平に伝える機会を得ていると私に話してくれた。人権侵害がある場合に、そのような目標を掲げることが倫理上でもジャーナリズムの面からも責任のあることなのだろうかという疑問はさておき、私はジャーナリストたちが「バランスのとれた」記事を書くことができたかを調べてみた。この目的で、相手の告発に対してどのくらいの頻度で反論の機会を与えられたかを調査した。その結果、「信者が薬を拒否した」「自殺した」などの(法輪功禁止を正当化する)中共の主な非難が引用された場合、法輪功に反論の機会が与えられたのは17.9%だった。一方、法輪功の主な主張である「信者が拷問されて死んでいる」という内容を記者が引用した場合、中共は50.2%、反論の機会を得ていた。つまり、ジャーナリストが中国共産党に自己弁護のチャンスを与える比率は3倍近く高かった。

また、中共が主張する法輪功修煉者の危険性については、外部情報からの裏付けはなく、少なくともいくつかの事例では、この中共の主張自体がかなり疑わしく映ることも注目に値する。拷問や殺害の主張は、複数の人権擁護団体や米国務省、国連の年次報告書などで明確に文書化されている。しかし、中共の主張が実証されていないことをジャーナリストが認識することはほとんどない。その反面、法輪功修煉者が拷問されているという主張を引用する際には、そのような主張は「疑惑」であり実証できないという但し書きを加える。


分析 ― よく見られるパターン

(翻訳者注:学者名は英語表記で敬称略)

この調査結果は一見、ショッキングかもしれない。人権侵害の悪化に逆行して、欧米のメディアはこの問題から目を背け、制御不能な拷問や殺害が続く中で迫害は無視され続けた。さらに、加害者(この場合は中共)が、報道内容をメディアに指示することが多く、迫害されているグループの解説方法にも影響を与えていた。

しかし、メディア研究の文献の観点から見れば、これらの調査結果は驚くべきものではない。これまでの研究では、政府の情報源は、地域社会に根ざしたグループよりもはるかに信頼性が高く置かれ、政府の行動や声明はニュース性が高いと見なされていることが、長年にわたり示されてきている。本調査はまた、人権侵害や自分の身近な生活に存在しない苦しみをメディアが報道することは難しいという、以前の調査結果も裏付けている。しばしば「思いやりへの疲れ」や「問題を全体像から捉えることの欠如」として現れている(参照例:国際人権政策評議会による2002年報告書)。

新しい宗教が欧米の報道機関でどのように扱われているかを考察する本稿では、これまでの知見も裏付ける。まず、Stuart A. Wright (1997年)は次のような調査結果を出している。「人気がないか疎外された宗教に関するニュース記事は、根拠のない疑惑や、誤っているか脆弱な証拠を基盤とする政府の行動を根拠に判定していることが多い」。法輪功に対する一掃運動を正当化するための中共による様々な主張が、欧米の新聞で不適切にそのまま使われていることがこの実例である。

また、本稿は、Harvey Hill、John Hickman、Joel McLendon による「新しい宗教運動は一貫して蔑称的な言葉で表現されている」(2001年)という調査結果も裏付ける。長い歴史のある秘伝の宗教は「伝統的」などの言葉で表現され、新しいグループ、例えば法輪功の場合は、「奇妙」「変人」(weird, bizarre, wacky)などのレッテルを貼られる可能性がある。

最も顕著な例は、法輪功を「カルト」とする用語の疑わしい使い方だ。宗教学者がこの言葉をどのように使おうとも、(法輪功の場合、宗教学者の見解をジャーナリストが引用することはほとんどないが)、一般的に使われているこの言葉に極めて否定的な意味合いがあることには疑いの余地がない。法輪功を「カルト」とする表現することは適切なのだろうか。

法輪功は数千万人の修煉者を擁する大規模なグループであり、あらゆる種類の普通の仕事に就き、家庭を持ち、「普通」の生活を送っている。社会から孤立することはなく、経済的な支払いの要求や財産所有の制限などはない。10年の迫害にもかかわらず、法輪功には暴力による抵抗が一切ないことは、おそらく最も重要な事実と言える。

John Dart (1997年)と Judith M. Buddenbaum(1998年)は、否定的で暴力的な意味合いを持つこの言葉をメディアが軽々しく使うことを警告している。法輪功のラベル付けは中共に由来する。欧米メディアは、これを鵜呑みにし、法輪功の信用を国際的に失わせ疎外化し、一度貼られたら剥がすことが難しいレッテルをはることで、事実上、中共を助けている。


具体的な要因

法輪功の場合、この現象には、いくつか別の要因も存在する。以下、手短に考察する。

1. 東洋の伝統的な修行の概念に馴染みがない
西洋のジャーナリストにとって、ユダヤ・キリスト教の伝統から生まれた新しい宗教団体の信仰に対処することは十分に困難であるが、法輪功は中国の自己修養の伝統に馴染みのないところから生まれてきた。気功とその様々な実践と現象について知っているジャーナリストはほとんどおらず、道教の衛生法や仏教のエネルギー変換の概念についてもよく知っている人はほとんどいませんでした。チベット仏教などの伝統の中では、法輪功の教義と形而上学的な記述は奇抜なものではありません。

2. 中国共産党による妨害と情報入手の難しさ
中国に駐在するジャーナリストにとって最も具体的な難題の一つに、中共の治安機関による妨害が挙げられる。BBCのRupert Wingfield-Hayesのようなジャーナリストは、法輪功を追求したことで、尾行・拘留・身体的な暴行を受けた。ジャーナリストは、見せかけの収容所へのガイド付きの稀な視察以外、労働収容所、刑務所、拘置所へのアクセスはない。良心的なジャーナリストであれば、中国で法輪功学習者と会うことは、取材された本人が危険に遭う可能性があり、深刻に考えることでしょう。外国人記者や人権擁護者と話したことで、投獄・拷問・殺害された学習者の例はあまりにも多い。

3.自己検閲
メディアに従事する者なら、「法輪功」は今日の中国で最も敏感なタブーのトピックに挙げられることを十分認識している。法輪功のニュースには触れないという「ブラックアウト」の方針をジャーナリストたちから聞いたことがある。記者や編集者は、政府機関へのアクセスが拒否されたり、嫌がらせを受けたり、ビザを剥奪されるなどの個人的な理由で、法輪功のニュースを敢えて選ばない場合がある。企業レベルでは、メディアの複合企業体は中国市場へのアクセスを求め、自分たちのウェブサイトが中国本土でブロックされないことを願い、共同プロジェクトを開発しようと考える。法輪功に関する記事が一つでも出れば、その雑誌は中国の新聞販売店から撤去されたり(Time紙の場合)、放送されなくなったり(BBCの場合)することを承知している。

このような困難にもかかわらず、ウォールストリート・ジャーナル紙のIan Johnson やワシントン・ポスト紙のPhilip Panのような一握りのジャーナリストは、質の高い調査報道を繰り返し続けている。


結論

これらが意味することは何か? 迫害の状況下にある法輪功にとっては、このメディア報道のパターンは、実際の人命を落とすことにつながる。強制労働所の生存者は、自分たちの迫害が海外で暴露された程度と、自分たちが受けた待遇との間に相関関係があることに気付いたと語っている。突然、拘置所の扱いが良くなり、比較的良い監房に移され、拷問を受けなくなったと言う者もいる。釈放されて初めて、海外で暴露された時期にその変化が起こったことに気づく。

具体的に、亡命申請者の例が挙げられる。法輪功難民は世界中で政治亡命を求めています。しかし、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの国では、これらの人々が迫害の危険に直面しているとは考えていないとして、修煉者をほぼ強制的に中国に送還しています。移民局の職員や裁判官が、法輪功の迫害についての報告を何年も見ていないので、危険はもはや存在しないと思ってしまうのだろう。実際に本国に送還された修煉者のうち、中国に到着してすぐに強制労働所に送られ、再び拷問を受けた者もいます。

中共は、弾圧運動を通して国際的なPRの方法を学んでいる。1960~70年代の文化大革命期とは異なり、今日の中共は国際イメージを重じている。中国で法輪功修煉者が迫害されている中で、党の指導者はWTOのような国際機関にアクセスし、オリンピック開催国としての地位を獲得し、海外各地の首都でレッドカーペットの待遇を受けた。残虐行為を隠すことに関心があり、国外の聴衆に対して国内政策を正当化する目論見だ。法輪功弾圧運動を通じて、中国当局は外国のメディアが操作できることを学んだ。

一般人への教訓としては、新しい宗教のグループに報道に関しては、政府の公式情報を疑うだけでなく、主流メディアの報道にも懐疑的でなければならない。


リーシャイ・レミッシュ氏は2001年から法輪功について執筆。現在はイーサン・ガットマン氏と共に、同グループの迫害とその抵抗に関する近日出版予定の書籍のために、調査中。

(翻訳者注:以上は2009年に発表された記事。)
記事のフルバージョン(英語)はこちらへ。
http://www.cesnur.org/2009/slc_lemish.htm


「殺害を正当化する虚言―中国共産党によるプロパガンダのメカニズム」 皆が嘘だと分かっている嘘を10億人に信じ込ませる方法は?その嘘を信じなければどうなるか?どのように見せしめするか?恐怖のあまり疑問も抱かず話題にもしなくなるには? その他の動画や映画は tv.faluninfo.net/ja/ へ。