仏国防省:法輪功を標的とした中共の海外浸透工作

フランス国防省傘下の軍事学校戦略研究所(IRSEM)は2021年9月20日、中国共産党(中共)の世界の各国政府への浸透・影響を詳述した『中国(中共)浸透工作』と題した報告書を発表した。

646ページの同報告書は、広範な情報収集に基づく中共政権の徹底した分析。華僑コミュニティ、メディア、外交、経済、政治、教育、シンクタンク、文化を通して他者をコントロールする、包括的な中共「統一戦線」の実態を明かしたもの。

また報告書では、中共による法輪功への迫害に関する79の事例が取り上げられている。中国共産党がいかに海外の中国語メディアや華僑団体を買収し、法輪功を非人間化して憎悪を煽るフェイク情報を拡散しているかを示す事例も含まれる。さらに、「中国学生学者連合会」(CSSA、中国大使館と領事館の統制下にある留学生組織)や海外留学している個々の中国人学生、五毛党(ネット工作員。中共を支持するオンライン上の投稿1本につき5毛支給されていたことに由来)を利用して中共が法輪功学習者を脅かす事実も記載されている。 

610弁公室

同報告書では、法輪功を、心身を向上させる精神修養法として紹介している。中国本土で広まり、数千万人の修煉者にのぼった。しかし、中共は自分たちの指揮下にない団体の存在を認めておらず、当時の共産党総書記・江沢民は、法輪功を脅威とみなした。

その結果、「610弁公室」が設立された。中国内外に1万5000人を擁し、法輪功を撲滅するために世界各地で活動を展開している超法規的な機関だ。

下記の動画は、「610弁公室」を解説した『あばかれる中国のゲシュタポ』(法輪大法情報センター制作)(8分26秒)。

法輪功を誹謗中傷するための資金提供

報告書によると、中共は他国のメディアに資金を提供し、法輪功を誹謗中傷する記事の掲載を依頼している。このため、法輪功への否定的な意見は「第三者」のものとしてより「信頼」できると読み手は信じ込まされる。

具体例を挙げると、610弁公室の工作員は、2020年4月、「ひどいスペイン語」で書かれた法輪功に反対する記事を掲載させるために、アルゼンチンのかなりの数の編集長に2万ペソ(約310米ドル)を支払っている。対象メディアは、El Cronista Comercial、Diario Popular、オンラインプラットフォームのInfobaeなど。記事には、法輪功に関する虚偽情報が大量に含まれており、法輪功の評判を落とすことを目的とする。また、法輪功の中傷・非人間化のために中共が頻繁に用いる表現も含まれていた。つまり、海外メディアを通じて中共のメッセージが拡散されたわけだ。

工作員が接触した1人の編集者が、法輪功修煉者である自分の同僚にこの件について知らせるべきだと考えたために事実が発覚した。この工作員は後に、この件で「中国」のために活動していたことを認めている。

法輪功学習者を装った悪質な電子メール

法輪功への評価を地に落とすため、一部の「攻撃者」は法輪功学習者を装って、カナダやその他の国の閣僚や議会に対して、法輪功に悪印象を抱かせる悪質な電子メールを送信した。

カナダ法輪大法学会のメンバーによると、中共の工作員が法輪功を弱体化させるために、多くの国のあらゆるレベルの高官にこのようなメールを「組織的」かつ「繰り返し」送信している証拠があると語った。送信されたメールの一部はIPアドレスが中国のものである。

海外の法輪功に干渉する外交官のビザ更新を却下

2006年、カナダ政府より在オタワ中国大使館の王鵬飛(ワン・ペンフェイ)二等書記官のビザ更新申請が却下され、王書記官は国外退去を命じられた。

問題とされたのは、教育部の王書記官が、カナダの法輪功修煉者の個人情報を収集し、彼らの法的権利を侵害していたことである。

具体例を挙げると、王書記官は、カナダ主要大学20校以上の中国学生学者連合会(CSSA)に対して、法輪功を中傷するよう指示した。また、国外の中国人学者を対象とした中国教育部発行の情報誌『神州学人』には、2004年、モントリオールにある北京大学分校のCSSA会長の「素晴らしい」業績、特に法輪功に対する戦術と「勇気」を称賛するという記事が掲載されている。

中国学生学者連合会(CSSA)の正体

CSSAは海外の中国人学生を統制する上で積極的な役割を果たしており、多くの学生に圧力をかけ、活動への参加の有無を左右している。例えば、オタワ大学のある学生は、CSSAから脅迫メールを受け取った。メールには「他の学生からの情報やCSSA関係者の調査で、お前が法輪功修煉者であることを確認した。気をつけろ」と記載されていた。

同様の出来事がカルガリー大学でも起きた。CSSAの一部のメンバーは、中共の工作員であるとする人物からメールを受け取った。「法輪功友の会」が大学内で主催する映画会に出席しないようにという内容で、「さもなければ、名前と写真を中央政府に報告する」と書かれていた。

CSSAが通信に用いる言葉から、中共のスポークスパーソンとして機能する組織であることが示される。トロント大学のCSSAは、2004年にトロント市に圧力をかけ、「法輪大法デー」の制定を撤回するよう要請した。翌年には、オタワ大学のCSSAが、新唐人テレビ局(NTD TV)の放送許可申請を拒否するよう関係当局に書簡を送った。その書簡には、中共の指揮下にある国外の中国大使が用いる表現と全く同じものが含まれていた。

4年前、オーストラリア国立大学キャンベラ校のCSSA会長は、キャンパス内の薬局で大紀元時報の新聞が無料配布されているのを見て、「誰が許可したのか」と問い詰めた。会長は薬局が新聞を廃棄するまで、執拗に圧力をかけた。

同様の事例は数多く存在する。一部の中国人学生は、自身の行為を正当化する上で、大学での彼らの経済的な影響力を利用してきた。彼らの行動は中国当局から支持され、奨励されたものである。

学生の動員

報告書『中国(共産党)浸透工作』によると、2010年胡錦濤・元国家主席のカナダ訪問に備え、在オタワ中国大使館がオタワとケベックの中国人学生3000人以上を動員した。学生たちの出費は大使館が全額負担し、一人当たり50カナダドル(約4500円)の報酬も受け取っていたという複数の証言がある。中国教育部の会議で、当時一等書記官だった劉少華(リュウ・シャオファ)氏は、国家主席の歓迎活動を“母なる祖国の名声”を守るための「戦い」と表現し、キャピトル・ヒルを「占拠」している法輪功学習者、チベットとウイグルの「分離主義者」の抗議を妨げるよう学生たちに求めた。

学生たちにやる気を出させるために活動費は大使館が全額負担すると劉書記官は念を押し、内容は「口外禁止」としている。2005年に胡錦濤がオタワを訪問した際、中共の高官は、主要な場所が「敵に占拠されている」ことに激怒した。そのため、2010年のカナダ訪問では親中共の人々による盛大な歓迎シーンを劉氏は期待していた。「なぜここに来たのか」と聞かれたら、「胡錦濤を歓迎するために来た。中加友好万歳!」と答えるよう学生たちは指導された。

同日、トロントの中国総領事館・教育部の張宝鈞・領事も、同様のメッセージを学生にメールで送っている。張領事は学生たちに、「協力して計画通りに行動する」よう念を押している。中国政府からの奨学金を受けているが欠席する者は、正当な理由を提示する必要があった。

世界最大規模の国境を越えた弾圧

同報告書では、中共の第一目標は、異見論者や自由主義世界で育った中国人など、海外の華僑を黙らせることにある。主なターゲットは、チベット人、ウイグル人、内モンゴル人、法輪功学習者などの少数民族や特定グループ。また、台湾の異見論者や民主主義の擁護者、人権擁護者、人権派ジャーナリスト、中共が「汚職」という罪名を着せている元官僚なども標的となっている。中共によるこの大規模な迫害運動は、世界で最も洗練され、最大規模で、最も包括的な、国境を越えた弾圧であると種々の人権団体が説明している。

目標達成のため、中共は国籍を問わず、中国系住民である限り、その組織や個人を監視している。その手段は、情報収集、潜入、抑圧、脅迫、恐喝、嫌がらせ、直接的な暴力にまで及ぶ。また、インド、タイ、セルビア、マレーシア、エジプト、カザフスタン、アラブ首長国連邦、トルコ、ネパールなどの各国の地方政府に対して、中共が個人の拘束・送還を要請した事例があった。

海外の中国語メディアの検閲・統制

中国の中央政府が、北米を含む世界の中国語メディアをコントロールしていることは一般によく知られている。実際、カナダの中国語メディアはほとんど全てが中国共産党の統制下にある。唯一の例外は、独立系メディアの大紀元時報と新唐人テレビである。

2005年、大紀元/新唐人の記者は、カナダの首相の訪中取材のために、中国渡航を申請したが、一旦発給されたビザは取り下げられた。

中国当局だけでなく、中共からの報復を避けるためにカナダ政府も大紀元/新唐人の記者によるアクセスを制限することがある。例えば、2005年に中国の胡錦濤・元国家主席がオタワを訪問した際、大紀元/新唐人は関連イベントの取材許可を得ることができなかった。2010年に胡氏がオタワを再訪したときも同じだった。

中共は国外の中国語メディアを統制下に入れるため、飴(金銭的な利益と引き換えに報道機関の自己検閲を促す)と鞭(中国に在住する記者の親族を脅迫)の2つを主な手段とする。さらに、中共は、中国語メディアの記者たちに対し一律に中共路線での養成を試みた。例えば、2014年、中共の指揮下にある現地の統一戦線により、北米で親中共の中国語メディア全てを統合する「国際新媒体合作組織」がバンクーバーに設立された。

孔子学院による高等教育への影響

中共が金銭的にテコ入れしているもう一つの工作は、孔子学院だ。シドニー大学のサルバトーレ・バボネス准教授によると、孔子学院はプロパガンダにとどまらず、大学の運営にまで国際的に影響を与えている。具体的に説明すると、中共は、資金、教員、給与、設備など、大学運営の鍵を握っている。経済面で逼迫している大学には、建物や語学センターを提供するまでに至っており、多くの大学はその申し出を断ることができない。このため、大学は中共に依存し、従順になっている。

このため、中共は各大学の意思決定に多大な影響力を持つ。その影響力は、特定の研究プロジェクトを抑止し(チベット、台湾、中共の影響への計画的な停止に関する研究の制限)、スタッフの言論と信仰(特に法輪功)の自由、ゲストスピーカーの選択、中共に対して大学が取るべき立場などを数多く制限している。最終的に自己検閲、中共にとって都合の悪い意見の封じ込めへとつながっている。